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創作– original –
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最終話 その声が届くとき
←前の話 格子から差し込む月光が、うっすらと影を落とす。陽が昇れば、また地面は熱く照らされるのだろう。少女は木枠の向こうに見える、満月を過ぎた月をぼんやりと見遣る。連れて来られたのは、村長の家の離れの小屋だった。中央に囲炉裏があるだけの室... -
第七話 嫁ぐとき
←前の話 「この役立たずが!」 怒声と共に響いたメキという嫌な音に、みおはビクリと肩を揺すった。璃卯が去って7日が過ぎた。照りつける陽射しは容赦なく、川は細く辿々しい流れへと姿を変えている。それでも、泉はいつも通りに水を湛えていた。木漏れ... -
第六話 見送るとき
←前の話 それから半月あまり。雨期にろくに降らずに迎えた夏は、盛りの今となっても夕立すらない。鳴き立てる蝉は相変わらずの姦しさだったが、いつもなら水を湛えて夏雲を映す田んぼは、申し訳程度の水たまりが点在するだけの有様になっていた。みおの畑... -
第五話 神と知るとき
←前の話 「最近、増えたね」 壊れた賽銭箱の前で熱心に手を合わせた村人が、鳥居をくぐって行くのを岩陰から見送った少女はようやく口を開いた。みおがこの村で迎える、3度目の夏が来た。相も変わらず社に通う少女の言葉に、泉の辺に座って足だけ水に浸... -
第四話 痛みを思ってふるえるとき
←前の話 「ふぁあぁ……」 いつものように岩の前に座った少女は、大口をあけてあくびすると、たてた膝に眠そうに顔を伏せた。柔らかな陽射しに透ける新緑は、あっという間に青々と力強く茂り、まもなく彼女がこの村に来てから3度目の夏が来る。出逢った頃... -
序章 祈りの翼
月が雲に隠れているのは、幸運だった。闇の精霊たちは、小さな翼をひそやかに包み、彼女の願いを風に乗せてくれるだろう。 砂時計の最後の粒が落ちかけていた。窓辺に立つ女は、枯れ木のような細い指先を虚空に滑らせる。かつては眩い光を放った力はとうに... -
File.XⅢ Down,down,down
「春休み中にどっか行こうよ」 卒業式を終えた午後。制服姿そのままで学校の最寄り駅のビルでのランチ。 受験生らしく遊びに行くこともせずに過ごしていたのと、バレンタインの後からこのビルが全館改装していたこともあって、ここに寄り道するのも久しぶ... -
File.12 うさぎはここにはいないヒト
「怪我の具合は?」 「んー……どうだろ。鬼ごっこはしたくないかも」 なにをさせるつもりなのかと向かいの男を窺うように見るも、ホットケーキの蜂蜜とバニラエッセンスとの香りに警戒はすぐにほどけ、幸福感に浸ってしまう。 出会った頃。なにを出されても... -
File.11 うさぎはしごとをえらべない
なんで今この時なのかと歯がみする。 最優先事項は”うさぎ”であり”瀬谷透子”のはずだ。そのように段取りをつけ、上にも報告してあった。それなのに、千彰と透子が接触するまさにその日に横槍が入った。 フィクションの世界ならば違法行為を連発してでも華... -
File.10 うさぎはうさぎになりにいく
『急ぎで耳にお入れしたいことが』 東から報告のコールが鳴ったのは、透子が風呂に入り始めてすぐのことだった。 -
File.09 うさぎはだんここうぎする
ベッドがある。 案内された部屋で真っ先に思ったのはそんなことだった。 -
File.08 うさぎはうっかりなつかしむ
正直なところ、透子の部屋に入ることはもうないだろうと思っていた。恋人関係は自然消滅。彼女の狭い行動範囲を考えれば、顔を合わせることもまずないだろうし、うっかり逢ってしまったところで彼女は他人のフリですれ違って、関係の終わりをひとり納得する気がした。 -
File.07 うさぎはおうちにかえれない
川村さんが探りたかったのは脱兎か三月ウサギか、それとも私自身のことか。 目的は相変わらず不明だけれど、探るために近づいたのはアプリの件で明らかだ。 -
File.06 うさぎはいのちをねらわれる
平日のバイトの帰りは通勤ラッシュにはまだ早い時間で、駅の構内も電車の中も比較的すいていることが多い。けれどその日は沿線で事故があったとかでホームは人でごった返していた。 -
File.05 うさぎはかめとくちづける
川村さんの提案──水族館か、遊園地か、というのが実現したのは、梅雨真っ盛りのことだった。 彼がそれを言い出したのは三月。あれから約三ヶ月が経過していた。多少休みの曜日が変動することはあっても、決まった休日以外規則正しく出勤して帰宅する私とは... -
File.04 うさぎはかわらずはねまわる
彼女の部屋に盗聴器を仕掛けたのは部下だった為、自身で訪れたのはその夜が初めてだった。全戸で六部屋しかない三階建の小さなマンション。彼女の部屋は二階の真ん中の部屋だ。住人は単身者ばかりだが身元はしっかりしており、彼女の部屋の隣も保険会社に... -
File.03 うさぎはひなではありません
友達になってください宣言以降、スマホのトークアプリに彼からのメッセージが届くようになった。ついでに言えばあの日以降バッテリーの消費も早くなった。原因はわかっている。彼がアドレスの登録と称して私のスマホを手にした時に、アプリを入れたせいだ... -
File.02 うさぎはしっぽをつかませない
「信じられるか? 鍋だぞ? よりによって! よく知りもしない男と!」 戻って来るなり不機嫌全開で言い放ったのは、直属の上司だ。 「しかもあの女、自分の箸を鍋に入れようとしやがった」 そもそも、随分ベタな手で誘うのだなと思っていた。いくら店に... -
File.01 うさぎはひみつをしっている
Alice.dat 目次 「君への気持ちはきっと一目惚れだと思うんだ」 恋愛対象が男性のはずの男は、人懐こい目を細めて微笑んだ。 ◇ ◇ ◇ 休日に重なったバレンタインということもあり、店内のカップル率は高く、一緒にシフトに入っている... -
第三話 ひそやかに願うとき
←前の話 「……いないの?」 この村で迎える2度目の冬。早朝から降り出した雪が、村の景色をすっぽり白く包む中、桶を抱えて白い息を弾ませながら社に来たみおは、童の姿を探しながら声をかけてみる。 「ねえ? いないの?」 シンと静まる泉のふちには...
