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創作– original –
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守りたかったのに傷つけた。あの恋の続きの話。
妖を宿す青年・大希は、想いを寄せた後輩を守るため残酷な言葉で突き放した。数年後、再会した彼女の隣には“あの日の言葉”を踏みにじる男が現れ、大希の抑えていた想いが揺らぎはじめる。 -
第4章 キツネの尾 1
デスクに放り出した名刺が視界に入り、凪は深い溜め息を落とした。手放したはずの過去は、こうもたやすく目の前に現れる。 綾華とはLynel()の売却を最後まで反対していた一人だ。 利益だけを追求するなら、あのアプリにはまだまだその余地があることは... -
第3章 紫陽花の庭 3
綾華の来訪から数日が過ぎた。咲良はエプロンのポケットにいれた名刺を、布越しにそっと撫でる。 この一週間、凪の姿は見えなかった。店にも現れず、広場でのパフォーマンスも途絶えている。それを、物足りなさと安堵が入り混じった気持ちで受け止めてい... -
第3章 紫陽花の庭 2
シャワーを浴びてすっきりしたはずなのに、テーブルの上の名刺が視界に入り、咲良は髪を拭く手を止めた。 ──これを渡してもらえないかしら? 綾華の声が耳の奥で蘇る。凪に渡さなければいけないのに、気付けばその名刺を家まで持ち帰っていた。 (綺麗... -
第3章 紫陽花の庭 1
またあの男が来た。 「この前のお花、すごく良くて。また、あなたに選んでもらいたくて」 二度目の来店でそう言った男は、それ以来、週に二回のペースで花を買いに来るようになった。ピシっとしたスーツ姿の男。咲良は作り笑いを浮かべながらホワイトボ... -
第2章 魔法の言葉 4
ファミレスの店内は、カトラリーの音と、人のざわめきで満たされていた。向かいの席のナギが、注文タブレットとメニュー表を手に取る。 「伊藤さんは、どっちで見ますか?」 冊子とタブレットを見比べながら、ナギが問いかけた。咲良がタブレットを指... -
第2章 魔法の言葉 3
午後の降水確率50%。降っても降らなくても当たりなんて、なんて狡い天気だ。降り出す前に──そう思って、咲良は買い物に出た。 デニムに無地の長袖シャツ。手にはキャンパス地のトートバッグ。休みの日にスーパーへ行く時と、たいして変わらない格好だ。 ... -
第2章 魔法の言葉 2
花は、誰に手渡されるかで、意味を変える──。咲良はそう思いながら、夕陽に透けるライラックの花弁をそっと整えた。橙の光が淡く窓を染め、夜の気配をやわらかく迎え入れていく。 気付けば、広場ではナギがパフォーマンスをしていた。数人の女子高生たちが... -
第2章 魔法の言葉 1
あの夜、桜の下で聞いた小さなくしゃみの音。声を持たないはずの唇から生まれた音が、胸の奥で何度も反響している。 雨粒が窓を強く叩く。最後に残った桜も、これですっかり散ってしまうだろう。 先週までの浮き足だった駅前の雰囲気は、花片が敷き詰めら... -
第1章 サクラとキツネ 3
八分咲きの桜が、街を少しだけ明るくしていた。けれど咲良の胸の中には、まだ冬の冷たさが残っている。季節は巡っても、心までは春にならない。 今週末は桜祭りだ。駅前の広場は毎年、屋台と笑い声であふれる。この季節だけは、どんな花も桜の前では脇役... -
第1章 サクラとキツネ 2
咲良はマーガレットを抱えながら、店の前の広場を見遣る。朝見た空色の帽子の群れはとうに消え、代わりに通り過ぎる人々の影が、長く伸びていた。 マーガレットの花がらを、鋏()で丁寧に摘んでいく。咲き終わって萎んだ花をそのままにしておくと、株が... -
第1章 サクラとキツネ 1
勢いよく店のシャッターを開ければ、派手な金属音が響く。 『言葉を必要とする世界』に、咲良を強制的に引き込む音だ。 ガラス越しに陽が射し込み、店内の花々も目を覚ましたように輪郭が照らし出される ほんの先ほどまで時間が止まっていたようだっ... -
第一章 偽りの願い3
少女の前に現れたのは、白く大きな犬だった。音もなく駆けてきたその犬は、彼女を庇うように立ち、男たちに身構えている。 「野犬……か?」 ひょろりとした男が誰に問うでなく呟くように言うと、猫背の男は剣を薙いで「シッ! どきなっ!」と犬を追い払お... -
第一章 偽りの願い2
久方ぶりに訪れたこの家の掃除も、昨日から黙々と取り組んだお陰で一通り終わってしまった。大概食事を摂るべきだと頭の片隅で考えつつも、何か食べたいかといえばやはりそんな気分にもならない。だから、内容など少しも頭に入ってこない状態なのを自覚し... -
第一章 偽りの願い1
少女は馬の背に揺られていた。もっともその形相は『揺られている』と表現できるような呑気さはなく、緊張を張り付かせて強張っていた。何しろ細い手首は体の前でしっかりと縛られているのだ。これではいざというときに体のバランスをとることすらままなら... -
最終話 その声が届くとき
←前の話 格子から差し込む月光が、うっすらと影を落とす。陽が昇れば、また地面は熱く照らされるのだろう。少女は木枠の向こうに見える、満月を過ぎた月をぼんやりと見遣る。連れて来られたのは、村長の家の離れの小屋だった。中央に囲炉裏があるだけの室... -
第七話 嫁ぐとき
←前の話 「この役立たずが!」 怒声と共に響いたメキという嫌な音に、みおはビクリと肩を揺すった。璃卯が去って7日が過ぎた。照りつける陽射しは容赦なく、川は細く辿々しい流れへと姿を変えている。それでも、泉はいつも通りに水を湛えていた。木漏れ... -
第六話 見送るとき
←前の話 それから半月あまり。雨期にろくに降らずに迎えた夏は、盛りの今となっても夕立すらない。鳴き立てる蝉は相変わらずの姦しさだったが、いつもなら水を湛えて夏雲を映す田んぼは、申し訳程度の水たまりが点在するだけの有様になっていた。みおの畑... -
第五話 神と知るとき
←前の話 「最近、増えたね」 壊れた賽銭箱の前で熱心に手を合わせた村人が、鳥居をくぐって行くのを岩陰から見送った少女はようやく口を開いた。みおがこの村で迎える、3度目の夏が来た。相も変わらず社に通う少女の言葉に、泉の辺に座って足だけ水に浸... -
第四話 痛みを思ってふるえるとき
←前の話 「ふぁあぁ……」 いつものように岩の前に座った少女は、大口をあけてあくびすると、たてた膝に眠そうに顔を伏せた。柔らかな陽射しに透ける新緑は、あっという間に青々と力強く茂り、まもなく彼女がこの村に来てから3度目の夏が来る。出逢った頃...
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