序章 祈りの翼

月が雲に隠れているのは、幸運だった。
闇の精霊たちは、小さな翼をひそやかに包み、彼女の願いを風に乗せてくれるだろう。

砂時計の最後の粒が落ちかけていた。
窓辺に立つ女は、枯れ木のような細い指先を虚空に滑らせる。かつては眩い光を放った力はとうに喪われた。今はもう残る力のすべてをかき集めても、すぐに吹き消されそうなほどに心許ない淡い揺らめきにしかならない。だからこそ、きっと気づかれずに済む。

終の別れと知っているのだろう。揺らめきから生じた小鳥のつぶらな眼がこちらを見つめ、掌の上でひとつ瞬いた。

── 間に合って。

声にならない祈りは冷たい空気に溶け、小さな翼の音が窓から遠のけば、ただいつものように重い清寂だけが立ちこめる。

頼れる者は、もういない。残された魔力も、わずか。
彼なら ── きっと、見つけてくれる。あの子を。途切れたと思っていた糸の先を見つけ、紡いでくれるはず。

白銀の翼は闇の精霊たちに守られ、空の向こうはどこまでも黒く塗りつぶされていた。

送信中です

×

※コメントは最大3000文字、5回まで送信できます

送信中です送信しました!
目次