記憶の欠片 第3章 3度目の口づけ

 いつものように屋上で昼食を摂りながら、昨日、己の姿をした何者かに襲われたことについて、改めて皆に報告した。
 昨夜のうちに他の守護者全員に電話で大方のことは伝えてあったが、今後の対策については珠紀を交えた上で考えるということになっていた。
「ま、俺ほどのイケメンを真似しきれるはずもなかったけどな」
 話し終えた真弘は、もうひとつ焼きそばパンを買ってくるべきだったと思いつつ、まだ食事を終えていない珠紀と慎司の弁当を物色しながら腹を撫でた。
「いえ。姿はもちろん、偉そうな態度といい口調といい、そっくりそのまま、真弘先輩そのものでした」
 口の中のものを飲み下した珠紀がそう言うと、「真弘先輩が二人……最悪っすね」と拓磨が眉を顰める。
「ほぉぉ、後輩ども。おまえらが日頃俺のことをどんな風に思ってるか、この機会にじっっっくり聞いてやってもいいんだぞ?」
「もちろん、男らしくて頼りになって、格好いいって思ってますよ。おにぎり食べますか?」
 けろりと言っておにぎりを差し出す珠紀に、一瞬唖然とした真弘は一気に顔が熱くなった。
「わ、わかってんならいいっ」
 咄嗟に、差し出されたおにぎりを受け取り、包みを開いてすぐにぱくつく。おにぎりの具材は高菜だったが、楽しそうな笑みを浮かべてこちらを見ている珠紀の視線に、味などろくにわからないまま、ぎゅうぎゅうと口に押し込んだ。
「幻術というのは考えられませんか?」
 慎司の言葉に、皆の視線が真弘に集まるが、口いっぱいのおにぎりにすぐには話せない。片手でちょっと待てと示した真弘は、口の中のそれをペットボトルのお茶で流し込んで、息を吐いた。
「幻術ってのは俺も考えた。でも、手応えはあったし、そういうんじゃねえ、と思う。そっちは専門外だから、違うとも言い切れないけどな」
「それにしても、話を聞いた限りでは、相手の挑発の仕方が真弘の単純さをよく把握しているな」
「そうっすね。カミっぽさがないというか……戦ってみて、先輩はどうだったんすか?」
「そうだなぁ」
 拓磨の言ったことは、真弘も感じたことだ。
 どうもカミとは、少し違う気がする。厳密に言えば、気配だけならカミだと判断するであろうそれは、言動がカミのそれとは一致しないのだ。
 基本的に、人に害為す類のカミは、剥き出しの本能そのもののような動きをする。単に暴れ回るようなカミもいるが、欲する物があれば、迷わずそれに手を伸ばしてくる。常世に引きずり込みたいとか、力を得る為に生命力を奪いにかかってくるとか、ある程度は戦ってみれば何を欲しているのかくらいはわかるものだ。
 人を欺すほどの知恵を持つ妖だったとしても、それはそれで、やはり目的が読めない。
 昨日のあれが、真弘を狙ってきたのだとしたら、攻撃の仕方が中途半端に加減していたようで腑に落ちないし、珠紀が目当てという雰囲気でもなかった。
 辛うじて考えられるのは、どこかに誘っていたのではないかということだ。離れた場所に立ち、逃げるでなく、かといって襲ってくることもせずに挑発し、こちらが追う気配がないのを見て取ると姿を消した。後を追わせ、どこかに連れて行きたかったのかもしれない。
 最初、挑発に乗せられるままに相手を追った時、真弘はかなり頭に血がのぼっていた。それは相手の好戦的な言動のせいでもあったが、人間離れした姿になった己の体の中で沸き立つカミの血が、そうさせたようにも思える。
 しかし、珠紀の呼ぶ声に、守るべき者が居合わせたことを思い出し、すぐに真弘は冷静さを取り戻した。その上で、本当はすぐにでもあの真弘の姿をしたものの後を追いたかった。
 真弘の姿を真似ていれば、他の守護者の前に現れた時、相手の油断を容易く誘える。あのまま逃がして、仲間になにかしらの危険が及ぶのを避けたかったからだ。
 だからといって、罠かもしれない場所に珠紀を連れて行くわけにも、あの場に放り出していくことも出来るはずなどない。
 追うことを諦めた真弘は、帰宅後すぐに守護者全員に電話をかけて注意を促した。
「カミのような気もするし、違う気もする」
「カミじゃないなら……幽霊?」
 デザートのヨーグルトを片手に、珠紀が呟く。
「俺は生きてるだろが」
「ですよねぇ。じゃあ、やっぱり更に別物が出てきたってことですよね」
 そう言って、彼女は指を折って事象を数えだした。
「まずフェレット。それが先輩の記憶をどうにかしたのか、単に先輩が頭をぶつけて忘れちゃったのか」
「フェレットを見たのは、まだ珠紀だけだな。俺は黒い固まりにしか見えなかった」
「そうか。そうですよね。あと、村の幽霊騒ぎと、昨日の真弘先輩もどき」
「……なんだか嫌な響きだな」
 マヒロセンパイモドキ。自分の名前が、とぼけた生き物の名前のようになっていることが、なんとなく不快だ。
 しかし、珠紀は真弘の言葉には気にも留めず、指を折っていく。
「それと、村で流行っている意識不明になる変な病気。それから、てん……」
 言葉を飲んだ珠紀が、そのまま困ったように黙り込んだのを不審に思い、真弘は先を促すように「てん?」と尋ねた。
「て、てん、天狗のしわざ?」
「「「「……」」」」
「な、なあんて」
 滑った冗談を誤魔化すように、えへへと笑った珠紀は、手にしたままだったヨーグルトにスプーンを入れて、かき混ぜるように動かした。
「こんなに一度にいろいろ起きると、どれから手をつけるべきか、困りますね」
 慎司が弁当箱を片付けながらそう言うと、考えていたのか寝ていたのか、目を伏せていた祐一が口を開いた。
「一度にまとまって起きているからこそ、それぞれがまったく関連がないというのも考えにくい。どれかは連動しているはずだ」
「で、結局俺らはどうするんすか?」
 皆の視線は、一番の決定権を持つ珠紀へと注がれる。
 それを受けて、スプーンをくわえた彼女は、小さく唸った。やがてスプーンを口から出すと「なんにしても、村の人にも被害が出ているなら、見つけて退治しなくちゃですよね」と言って、どうしましょうかと小首を傾げた。
「放課後にでも俺らで探しまわるか? 幽霊でもフェレットでもなんでもいいから、見つけたものから叩きのめす」
「ま、手がかりもないんじゃ、それくらいしかやりようもないっすね」
「だったら、珠紀先輩を送る当番以外の時には、各自で探しまわりますか?」
「あ、ストップ! 待ってください」
 一同が頷きかけた時、慌てたように珠紀が声を上げた。
「探すのはいいんですけど、とりあえずみんななるべく単独行動は控えて下さい。見つけても一人で追いかけたりとか、そういうのは絶対禁止ですっ」
「おまえ、そんなんじゃ逃げられてばっかりだろうがっ」
「追いかけたせいで、先輩みたいにみんなが記憶喪失とかになるほうが困りますっ」
 真弘の意見など聞かないとばかりに、珠紀はツンとそっぽを向く。
「ならば最低でもふたり一組で行動する。何か見つけた時にも、無闇に戦いを仕掛けない。それでいいか?」
 祐一の言葉に珠紀が頷くのと同時に、昼休みの終わりを告げる予鈴が響いた。
「あっ! 次、数Ⅱだよね?」
「だな」
 拓磨に確認した珠紀は、もの凄い勢いで片付けを始める。あまりの勢いに、皆何事かと思いつつ、黙ってその様子を見守った。
「拓磨、プリントやってきた!?」
「俺がやってると思うか?」
「だよね……」
 肩を落とした珠紀は、脱兎の如く屋上を出て行った。
「落ち着きねえなぁ……」
 思わず呟きが零れる。
 珠紀のことを玉依姫らしいと思ったことなどない真弘の中で、『玉依姫』というイメージがまたひとつ壊れた気がした。

「だいたいあいつにも隙があるんだっ」
 放課後の屋上で、真弘は胸の中のムカムカを吐き出すように、声を張り上げた。
「それはさすがにあいつのせいじゃ……。男に押さえつけられたら、いくら珠紀でもどうにもできないっすよ」
「そういう状況になるなっつってるんだっ」
 言って、腰掛けた給水塔から空中へと身を躍らす。一瞬の浮遊感を味わいながら、軽やかに着地した真弘は、苛立ちをぶつけるように拓磨目掛けて足を蹴り出す。しかしその動きは読まれていたようで、あっけなく躱された。それもまた面白くない。
「俺が何したっていうんすか」
「おまえがちゃんとあいつを見張ってないからだ」
 真弘の言い分が理不尽だとでも言うように肩を竦めた拓磨は、ふと手すりの向こうに視線を投げて「お、珠紀っすよ」と指さす。
 見れば、珠紀と慎司が並んで校門を出て行く所だった。その後ろ姿を見送りながら手すりに歩み寄った真弘は、そこに体重を預けるようにもたれ掛かりながら、先ほどの出来事を思い返す。
 
 5限目が実験だった真弘は、理科室の帰りになんとなく拓磨と珠紀の教室に足を向けた。
 終業5分前。
 プリントをやっていないくらいでまさか立たされてはいないだろうが、もしもそうだったらからかってやろうとは思っていた。
 ところが。
 廊下の先で、数人の生徒のざわめきに視線をやれば、両腕を押さえられ、顔を背けた珠紀の首筋に灰色髪の男子生徒が顔を埋めていた。
「っ!?」
 考えるよりも早く、体が動いた。
 持っていたノートや筆記具を放り出し、珠紀のもとへと駆けつけた真弘は、珠紀の腕を抑える男の腕を掴んで力任せに引き離した。
「なにしてやがるっ!?」
 灰色髪の男の方が背が高く、見下ろされるかたちになるのを腹立たしく思いながら、強く睨み付ける。
 真弘の様子に少しの驚きも見せない男子生徒は、問いかけに答えもしないまま、こちらを値踏みするような目つきで見ていた。
「なにしてんのかって訊いてんだよっ!」
「ふん……」
 やがて興味もなさそうに鼻を鳴らすと、そのまま背を向けて歩き出した。
「てめぇっ、待ちやがれっ!」
「せ、先輩っ」
 殴りかかろうとする真弘の腕を、珠紀が引き留める。
「人のクラスの前で騒ぐとかやめてくれませんかねぇ、センパイ」
 背後から緊張感の欠片もない、拓磨の声がかかった。
 やってきた拓磨は「何があった?」と珠紀に問う。
「それが……」
「拓磨っ! てめぇ、こいつから目ぇ離してんなっ! だいたいおまえら授業中じゃないのかっ!?」
「自習だったんすよ。トイレくらい行かせてください。なんかあったんすか?」
「そうなんです、自習で。とりあえず先輩、落ち着いてください」
 灰色頭が廊下の角を曲がっていく。
 真弘は自らを宥めるように息を吐いて、珠紀に状況を確認しようと向き直った。
「さっきのあれはなんだ?」
「そんなの、私が訊きたいくらいですよ。でも……こないだ助けてくれたの、あの人です」
 珠紀は廊下の向こうを見つめてそう言うと、拓磨に問いかけた。
「拓磨、さっきあっちに行った男子、あれ誰?」
「さっきって、俺が来た時にあっち行った奴か? 灰色頭の?」
 そうそう、と珠紀が同意を示す。
「一応俺らの同級生だぞ? 先輩の、元同級生っすよね?」
「は? ダブってんのか? つか、珠紀。誰が助けたって?」
「だから、真弘先輩と襲われた時、助けてくれた人がいたって話したじゃないですか」
 周囲を気にしてか、珠紀が声を落として言う。
 真弘が記憶をなくした夜、確かに珠紀はそんなことを言っていた。しかし、そのことと、先ほどの光景はどう考えても結びつかない。
「あー、……で? 何がどうなってさっきみたいなことになったんだ?」
 真弘の問い掛けに、珠紀は「さあ?」と首を傾げた。

「さあ、じゃねえっつうの」
 慎司と肩を並べて楽しげに歩く背中を見送りながら、独りごちる。
 今日は帰りに卓の家に寄るのだと言っていた。あの男子生徒のことも報告したいし、と言った珠紀は、卓さんには学校で会えないですし、と笑っていた。
 後ろ姿だけでも、ふたりの会話が弾んでいるのがわかる。その様子は、なんとなく面白くない。かといって、自分が送っていきたいというわけでもなかった。
 珠紀とふたりきりだと、どうも気まずい空気が流れる。真弘が忘れてしまっているせいで、珠紀が会話にどう反応していいか迷っているのだろうというのもわかるし、真弘自身も珠紀の言動に戸惑うことが多い。
 ましてや、覚えていないが、珠紀は真弘の彼女だったのだ。
 あんな風に、守護者になった己を体感してしまえば、もうこれは認めざるを得ない。つまり、珠紀とはそういう仲だったのだろう。
 それにしても。
 玉依姫が現れても、絶対に真の守護者になどなりたくないと思っていたのに、どうしてああいうことになったのだろうか。
 それは贄になりたくなかった自分の、ささやかな抵抗だったはずだ。
 それなのに、忘れている自分は、それを受け入れたというのか。強敵を相手に仕方なくだったのか。それとも、珠紀にほだされたのだろうか。
「祐一。拓磨も。おまえらも守護者として、覚醒してんのか?」
 校門をくぐって行った背中がすっかり見えなくなっても、そちらを見遣ったまま真弘は訊いた。
「覚醒っすか?」
「おぉ。こう、背中にばーんと羽が生えてだなぁ」
「おまえだけだ。真弘」
 玉依の力は口移しだ。
 純情そうなあの珠紀が、守護者全員とキスをして、五人ともを覚醒させるなどないだろうことはわかっていた。わかっていて訊いてみた。
 なんでその相手が、自分だったのだろうか。
「……なんであいつ、俺にしたんだ?」
「……」
「あ、いや、だからよ。そりゃ俺様ほどの男に惚れるのは無理もねえっつうかよ。でも、祐一だって俺ほどじゃないにしろ、それなりにいい男じゃねえか。拓磨だって同じクラスで、話も合うみたいだし、慎司だって同級生にモテてるらしいし……」
「真弘。珠紀が受け入れたことには代わりないが、先に告白したのはおまえだ」
「は?」
「最初に告白したのもおまえだし、その場ですぐに珠紀の同意なしにキスしたのはおまえだ」
「はぁぁぁ!?」
 祐一の爆弾発言に、真弘の思考はすっかり停止してしまう。
 最初の告白だけでなく、キスも自分から。しかもその場ですぐ。
 同意なし。同意なし。同意なし。頭の中で連呼する。
 相手の了承もなく、告白して勝手にキスしたということか。
 いやいやそんなはずがない。そう頭で否定する。
 この鴉取真弘様に限って、そんなこと絶対に絶対にあるはずない。言い聞かせてみるが、自信はない。なにしろ自分は覚えていないのだ。
「……嘘、だよなぁ?」
「嘘ではない。俺と大蛇さんの目の前だった。なんなら詳しい状況も説明するか?」
「……いや、いい」
「へぇ、それは初耳っすねぇ」
 いかにも楽しそうな声が響く。
 常ならば拳を繰り出しているところだが、真弘の頭の中はそれどころではなかった。
 黙り込む真弘に、祐一が言葉を続けた。
「おまえが贄になる運命だと知っても、珠紀だけがおまえと一緒に、そうならずに済む方法を探し続けた」
「……」
「そうっすよ。ロゴスの奴らには徹底的にやられるし、ババ様まで敵に回るし。急に玉依姫だなんて言われた奴とは思えないくらい、あいつは頑張ってた」
 静紀が敵に回った。その言葉に一瞬衝撃を覚えた真弘だが、すぐに当然だろうと納得した。
 鬼斬丸の封印は限界を迎えていたし、そこにきて贄がそうならないで済む方法を探すのだと言い出せば、当然そうなる。
 そんな状況でも、珠紀は真弘の味方でいてくれたのだ。世界が終わるかもしれなかったのに。
 真弘は改めて、己が忘れている数々の出来事の大きさを思い知った。
「……珠紀が嫌いか?」
「別に……嫌いなわけじゃねえけどよ」
 別に珠紀のことが嫌いなわけではない。
 まっすぐに向けられる好意は嬉しいし、顔の造作だけでなく、くるくると変わる表情はずっと見ていたいと思わなくもない。からかった時の強気の口調も、小動物を相手にしているような、もっと構いたくなるような気持ちになる。
 けれど。
「ならば、玉依姫が嫌いということか?」
 珍しく深く突っ込んでくる祐一の顔を見る。
 手すりに寄りかかって座る横顔は、常通りの彼だ。
 それでも、こんな風に言ってくるということは、祐一なりに真弘の珠紀に対する態度に思うところがあったのだろう。
「……玉依姫は、なんつーか、そういうんじゃねえだろ。男女の、その……好き、とかよぉ。好きとか嫌いとか、そういうんじゃねえじゃねえか」
「対象外ということか。ならば俺が貰ってもいいか? それとも、拓磨。おまえが貰うか?」
「……そうっすねえ。真弘先輩がいいっていうんなら、俺が貰うのもいいっすね」
「ななななんだ!? おまえらそうなのか!?」
「対象外というなら、真弘には関係ない」
「ば、おま、俺は! だいたい貰うとかって、珠紀は物じゃねえぞっ」
 祐一は涼しい顔で「冗談だ」と言ったが、どこまでがそうなのかは少しも読めない。
「真顔で言ってんなっ! つうか、そんなことの為に俺らを呼び出したっていうんじゃねえよな?」
 昼に珠紀が屋上を去った後、祐一は放課後珠紀を除いてもう一度集まろうと言い出した。授業に遅れてまで話すほどの急ぎではないと言った祐一は、出来れば集まることは珠紀に伏せておきたいとも言っていた。
「ああ、確認したいことがある。真弘、珠紀に昨日電話で言っていた病気の話をしたか?」
 昨日、真弘は真っ先に守護者のまとめ役である卓に電話をかけた。その時に、珠紀にはもう少しはっきりしてから伝えるので、まだ言わないで欲しいという前置きのもと、村でおかしな病気が流行りだしたようだと教えられた。
 卓もまだ詳しくは把握していないということで、これから他の守護者にも電話するのだという真弘に、ならば他の者にも伝えて欲しいと伝言されていた。
「いや? 俺は……あ?」
 そういえば、と思い出す。
 珠紀は、昼に『村で流行っている意識不明になる変な病気』と口にしていた。卓に、病気が流行りだしたようだ、と聞いていた真弘は、あのことか、と納得していたが、どんな病気かまでは知らなかった。
 誰が彼女に、それを伝えたのだろうか。
「拓磨、おまえあいつになんか話したか?」
「まさか。あれは言うなって言ってたじゃないすか。俺はあいつが知ってたんで、てっきり予定変更で先輩が話したもんだと思ってたんすけど」
「だよな。……慎司も、言うわけねえな」
「噂くらいは珠紀の耳に入ってもおかしくはない。しかし、俺が知る限り、どんな病気かまでは噂されていないし、珠紀はそれが今回のことに関連があることだとわかっているような様子だった」
 3人でしばし考え込む。
 それはつまり、珠紀はとっくに知っていたということだろうか。
「このことだけじゃなくても、なんかあいつ変じゃないすか?」
 拓磨が、祐一に問い掛けた。
「この状況なら、真っ先に作戦会議だ、とか、敵を知るべきだ、とか言って、毎日俺たちを集めて話し合ったり、蔵で調べ物したりしそうじゃないっすか。でも病気のことひとつとっても、知っていたのに、今回は全く俺たちに話を振ってこないというか……」
「この前図書室に来た時は、熱心に調べていた。家で、蔵の中を調べるくらいはしていそうだが」
 答えながら、祐一も再び考え込む。
 そんなふたりの様子を見ながら、真弘も考えてみる。
 守護者に情報をすべては与えないままに、玉依姫が物事を把握している。それはいたって普通のことのような気がするのに、なんでこのふたりはそれについてこんな風に考え込んでいるのだろうか。
「俺たちは玉依姫の道具だ。玉依姫が知っていることを俺たちに全部は言わないからって、別に不思議じゃなくねえか?」
「あー……あいつの場合には、それはないっすね。情報は共有しようとするし、俺たちを道具と割り切れないから、無駄に悩みを増やす。そういう奴ですよ、珠紀は」
 拓磨の言葉に、祐一も頷いて同意を示した。
「ずいぶん信じてんだなぁ」
 真弘が言うと、祐一はどこか面白がるように目を細めて「多分おまえほどじゃない」と答えた。