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「なんだ、新年早々難しい顔をしているな」
執務室で年度末までの未達成のノルマや、新たに送られてきた業務データを眺めるうちにお屠蘇気分もすっかり抜け落ちてしまった。
やってきた鶴丸は間近にしゃがみ込むと、白い指先で私の眉間の皺を撫でて苦笑を溢す。
「そりゃ……、ううん、大丈夫。これだけやったら広間に戻るから鶴丸は先に」
「なあ、今飲み込んだそれは、きみが自分に毒を盛ったようなものだぜ?」
大きなため息をついた神様は「まあ、きみが主として道具や臣下に晒せぬものがあるというのもわからなくもないが」とゆったりと胡座をかく。
金色にどこか悪戯げな色を混ぜ込んでこちらを見つめると、伸びてきた手は私の髪をゆっくりと混ぜるように撫でた。
「俺は千の齢を生きてきた付喪神だ。きみなど幼子のようなものさ。それならきみが甘えようと泣き言を言おうと許されると思わないか?」
髪を撫でていた掌はするすると滑って背中にまわり、そのままグイと引き寄せられた。
ぽすんとおさまった腕の中。
「それとも、恋人の俺をご所望かい?」
揶揄う口調に小さく笑いだけを返す。
ここだけは世界で一番弱くても許される場所。
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