そろと障子をひけば布団の主はぎゅうと羽織を抱きしめて眠っている。
碌でもない夢でも見ているのか、射し込む月明かりに照らされるのは眉間に皺を寄せた寝顔だ。
鶴丸が部屋に泊まるのは休前日だけ。
そう決めたのは初床の明けた日のこと。
そんな二人だけの決め事は変な所で真面目な彼女に合わせ未だ破られたことはない。
その彼女が今宵は鶴丸の部屋を訪れた。僅かばかりの期待をよそに見守れば何か言いかけた唇をはくと噤んだ後に紡がれたのは「羽織を貸して」という言葉。
「中身はいいのかい?」と軽口を叩けば「まだ明日は休みじゃないよ」と目元を染めながら睨む彼女は大切そうに羽織を抱えて去って行った。
「なんで言えないかねぇ」
枕元に膝をついて密やかに溜息をおとす。
聞きたくて、言わせたくて。言われなくとも傍にいたくて。
惚れるが負けというけれど、結局こうして部屋まで来てしまった。
「欲しいものは欲しいって口にすることは覚えておいて損はないぜ?」
そろりと隣に横たわれば、彼女は閨事の後のようにすりと腕の中におさまって安堵したとばかりに緩く息を吐いた。
眉間の皺は消えている。
鶴丸も笑みを深めながらそっと目を閉じた。
(Pawooログ 17/10/24)
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