Twitterでプライベッターに投げたのと同じです。
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「で? それは一期たちと示し合わせてのナリだったのか?」
後ろ手に障子を閉めた鶴丸は、手にした扇をはらりと開いて口元を隠すと不機嫌露わな視線をこちらに向けてきた。
◇ ◇ ◇
ハロウィンは仮装してお菓子の交換ごっこをしよう!
そう決めたのは十月に入ってすぐのことだった。
そして今日のおやつ時。本丸をあげてのハロウィンパーティが執り行われた。
鶯丸の河童姿や、スーツ姿で犬耳と尻尾をつけた三日月のあれは狼男。そんないかにもハロウィンな仮装もあれば、アラブの王族かと見紛うほどの切国や花魁姿の石切丸と小狐丸、タキシード姿の長谷部。デカいキノコのぬいぐるみを抱え、赤い帽子にツナギ姿だった骨喰は、あれは自分でセレクトしたんだろうか。
ひときわ目立っていたのは粟田口。彼らは一期が道士姿、短刀たちがキョンシーに扮し、これが順位を競う大会ならば団体戦第一位間違いなしという見事な仮装で場を盛り上げた。
私はといえば、一度着てみたかったチャイナドレス。白と紅とで最後まで迷って、結局選んだのは紅い生地に金糸で鳳凰の描かれたそれ。深いスリットにちょっとドキドキしながら、これはもしかして色っぽく見えちゃうんじゃないの!?なんて期待に、平らな胸を想像だけ膨らませて袖を通したのだけれど。
なんか違う。
鏡に映る己の姿は、どうにもイメージしていたそれと違う。腿まで見えるスリットは確かにセクシーといえなくもないし、腰から尻のまろやかなラインはそれなりに女ぽく見えるって自画自賛したくなる。
が、ない。
最も女性らしさを強調するはずの。
男の人の夢と希望が詰まっているという噂の。
おっぱい。
くぅと唇を噛みしめたところで、ないものはない。
夢や希望の代わりにハンカチを何枚も何枚も何枚も詰め込んで、パッドで蓋をしてようやく満足いく姿にはなったものの、なんかこう負けた気がして盛大な溜息を落としたのはここだけの話。
トリックオアトリートが飛び交う中、鶴丸は広間になかなか現れなかった。
人を楽しく驚かせるのを好む彼のこと。よほど手の込んだ仮装やメイクでもしているんだろう。
そんなことを考えながら、貰ったばかりのマカロンをカプと口にした視界の端、捉えて思わず息を呑んだ。
白い狩衣姿。
生地には銀糸で鶴の紋が描かれている。袖口や肩から覗く単衣は涼しげな蒼で、それもまた彼の白銀の髪を引き立てるのに一役買っていた。烏帽子こそかぶっていないものの、まさに平安の絵巻物から抜け出てきたような美丈夫は、はらりと扇を開いた。その目元には石切丸のように紅をはき、それがどこか艶めいた雰囲気を醸し出していた。
常の快活な印象はなりを潜め、優美な仕草でこちらに向かってくる姿に息をするのも忘れて一瞬見惚れ、急いで視線を逃がした。
間近までくれば、彼の香りがふわりと香る。
ああ、ここにいるのは確かに私の知る鶴丸だ。そんなことを再確認して安堵しながらも、なんとなく言葉が出ない。
鶴丸の方も黙ったままで、どうしたのかとそろりと視線を上げると、私の姿に上から下まで視線を走らせた彼は、扇を閉じて軽く眉を寄せた。
「な、なに。なんか変?」
端正な顔が近づいてくる。わいのわいのと賑々しいみんなの声が一瞬遠のくように感じたものの、それにしたって大勢がいる場所だ。まさかキスなどしないはず。いやでもこの距離って!?
身構えながら間近な蜜色を見つめると、耳元に唇を寄せた彼は「見栄っ張り」とトンと私の夢と希望の代理品が詰まったそこを扇でつつき、くつりと喉を鳴らした。
「!!」
確かに実物を知っている彼からすればお笑い草だろう状態には違いないけれど、私だって夢や希望でここをいっぱいにしたかったんだから!
腹立ち紛れにマカロンを口につっこんでやったのに、指まで舐め上げられて肌が粟立つ返り討ちにあったのが返す返すも口惜しい。
そんなことがあったのが先ほどのこと。
鶴丸が、「入るぜ」と返事も待たずに私室の障子を開けて入ってきた。
「で? それは一期たちと示し合わせてのナリだったのか?」
「な、なに急に。そんなわけないでしょ。仮装の内容はお互いナイショにしてたじゃない」
せっかく着たチャイナを脱ぐのが惜しくて、それでもこのまま夕食に行くわけにもいかないかなと座り込んでいた鏡台の前。
狩衣を纏ったままの鶴丸に気圧されながら、どうにか言葉を返した。
平安の衣装など三日月たちで見慣れているはずなのに、なんだか落ち着かないような、居たたまれないような心地になり、胸がバクバクと音をたてる。
正直言って、もの凄く似合う。控えめに言って、格好良すぎる。
でも、だから、なんというか直視出来ない。
「きみ、さっきからなんで目を逸らすんだ?」
差し伸べられた扇の先が私の顎を捉え、彼の蜜色を見ろと促すように上向かされた。
そのまま私の前に膝を突いた彼は「やましいことでもあるのかい?」などと尖った声を向けてくる。これは完全に誤解されているらしい。
確かに、一期たちの隣に並ぶと違和感がないなどと皆にはやされて一緒になってポーズを取ったり、写真に納まってみたりはしたけれど、本当に本当に偶然なのに。
「やましいことなんて、ない、けど……」
「けど?」
「……みたいで」
「あ? なんだ?」
「だから。鶴丸が、か、っこいいから……」
なんか知らない男の人みたいで、とごにょごにょと口の中で言い訳を口にする。
くっそう。こんな風に白状させられるのは悔しい。悔しいけれど、本当なんだから仕方ない。
顔がすごく熱くなっているのを感じて、膝の鳳凰の羽をギュウと握り締める。
「へぇ……宴を愉しむにはこのナリじゃあ少々窮屈だったが、きみにそんな顔をさせられたなら上々だな」
見なくたってわかる。
もの凄く満足げに、どこか勝ち誇ったように、それでいて楽しそうに目を細めているに違いない。
視線を落としたままでいると、衣擦れの音がして再び扇で顎をとられる。
「さて、主。とりっくおあとりーとだ」
戦利品という名の菓子ならば、この部屋に山ほどある。この上、悪戯なんて絶対させないんだから。
そう思って答えようとした瞬間、唇を食むように甘噛みされて、ちゅっと音をたてて離れていく。
「ちょ、私まだ答えてない」
「どっちを選んだって一緒だろう。なんたってきみはどこもかしこも菓子みたいに甘いからな」
反論しようとして開きかけた口から漏れたのは、スリットから忍んだ手に誘い出されたあえかな吐息だ。
「な? 声まで甘い」
彼の紡ぐ声だって充分に甘いのだけれど。
反論は諦めて、私も甘いそれを満喫すべく目を閉じた。
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