くつりと笑う気配に、はっと振り返ると満足げな猫のように金色の目を細めた鶴丸が、部屋の入り口に寄りかかってこちらを見ていた。
右手の鶴丸パペットをそろりと下ろしながら、誤魔化すように唇の端を引き上げて「えーと……いつから?」と問うてみる。
「なに、『知ってるかい? 俺はきみが大好きなんだぜ』くらいからだな」
「は、はは……」
顔が熱くなる。いい大人がひとり、パペットを相手に、ましてや恋人に見立てての会話遊びなどさぞや間抜けに見えたに違いない。
「ああ、気にせず続けてくれて構わないぜ?」
そう言うとゆったりと袂の中で組んでいた腕を解くと、寄りかかっていた障子から身を離した。どんな羞恥プレイだ。
「随分愉しそうだったな」
「いじわる。わざと気配消してたでしょ」
近づいて来る彼を上目遣いに睨んでみても何処吹く風、目の前に腰を下ろすと畳に横たわるパペットをつまみ上げた。
「これは? 俺をかたどったように見えるが」
「そうだよ、鶴丸のパペット……ええと、手を入れて動かして遊べる人形」
「それは知ってるさ。見てたからな」
「~~~っ」
「買ってきたのかい?」
買ってきた、というと語弊がある。
万屋の一角にある遊戯スペース、そこに新しく設置されたクレーンゲームにこのパペットを見つけたのは昼食後の買い出しでのこと。
あまりにムキになってちゃりんちゃりんと小銭をつぎこむものだから、同行してくれていた獅子王の眼差しも「まだやるのかよ」と生温かいを通り越して、呆れがありありと浮かんでいた。
その獅子王が、最後の一回でとってくれたものだった。
「まあ、うん、そんなとこ」
「へえ……。で? 人形遊びは仕舞いかい」
意地の悪い笑みを浮かべ、パペットに手を突っ込んだ鶴丸は『なァ、あるじどの?』とちょいちょいと人形を動かして見せてくる。
「お、おしまいに決まってるでしょ」
その手から、ひったくるようにパペットを奪い取る。仮にも大好きな相手を模した人形だ。あまり乱雑に放り出すのも気がひけるけれど、かといって抱っこしているのもなんとなく居心地が悪い。
僅かに逡巡しいてると、「そうか」と間近に迫った美丈夫に唇を塞がれた。
「──っ!?」
キスくらいで驚くような仲ではないけれど。それにしたって、まだ廊下には普通にみんなが行き来するこんな時間にというのは珍しい。
混乱していると、そのままとさりと押し倒され組伏されてしまった。
「え、えーと、鶴丸?」
「『知ってるかい? 俺はきみが大好きなんだぜ』」
聞き覚えのある台詞を耳に吹き込みながら、べろりと舌で舐め上げられる。両脚の間に膝を割り込み、膝頭からラインを確かめるように撫で上げてくる掌はそのままスカートの中に忍び込む。
「ちょっ、つ、鶴丸、どこに手入れて」
「きみだって俺の服の中に手をつっこんでいたじゃないか」
「俺って……鶴丸じゃなくてっ、んっ、ぅむっ」
反論なんて聞く気はないと、熱い舌が有無を言わさず侵入し、舐めて絡めて吸い上げていく。散々に蹂躙しつくした熱は、私の体からくったりと力が抜けるとようやく離れていった。
「さっきはきみが俺を好きにしたんだ。今度は俺の番だろう」
金色を蜜のように甘く蕩けさせた鶴丸は、そう言うと再び私の唇を塞いだ。
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