こじえたうさぎのよるのもり をもうちょっと鶴さに風にリメイクしてみたやつ。
支部から消したらサイトに載せてなくてアワアワとバックアップ探し出してきました。
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腕の中におとなしくおさまってくれている白いモフモフをきゅっと抱きしめながら、来た時と同じく冷たい床を踏みしめて帰る。
もう寝るだけだったから、膝までのワンピースタイプの寝間着でいたのだけれど、さすがになにか羽織ってくるべきだったと反省したのは先ほどのこと。外に面した縁を歩くには、この格好ではまだ寒い。
それでも今は腕の中にお供がいてくれるぶん、胸もお腹もほかほかと暖かかった。
頬でその毛並みの感触を愉しみながら自室への角を曲がった途端、白い何かとぶつかりそうになり息を呑む。
「っと、なんだ、虎なんぞ抱いて」
「鶴丸さんこそ、こんな時間にどうかしましたか?」
「きみの様子を見に来たらいなかったからな。探しに行こうと思ったところだ」
私の頭からつま先まで視線を走らせて眉を顰める様子に、なにかいけなかっただろうかと不安になり、咄嗟に「すみません」と口にする。
「その……寒くて、この子を借りに行ってたんです」
「そのなりでか?」
「はい。上着くらいは羽織ってくべきでしたね」
ちょっと寒かったです、と誤魔化すように笑うとため息をつかれ、あぁこの答えは違ったのかと私も内心ため息を落とす。
この真っ白いカミサマとそういう仲になってから七日が過ぎた。
両想いだというだけでも信じられないくらいのことだったのに、そこからの展開が早すぎて正直実感もわかない。わかないけれど、鶴丸さんの眼差しが、触れる手が前よりもずっと甘く優しく感じてしまうから、だから──怖い。
刀剣男士は基本的に主である審神者にとても優しい。大抵顕現したその日から好意的に接してくれて、しかも見た目はトップクラス。そんな人たちに主、主と持て囃されて過ごせば勘違いせずに過ごす方が難しい。
審神者は慢性的に人員不足で、多少の難には目をつぶると言われているなか、あの審神者さんが本丸追放されたってよ、本丸解体になったのは審神者さんが闇堕ちに殺されちゃったかららしいよなんて噂話も珍しくない。
だから、審神者はいつだって自分を戒めて言い聞かせて、時々政府に釘を刺されながら、どうにかバランスを保つ。
ましてや、カミサマ相手に特別な感情を持ってしまったなら尚更だ。
望まないように、期待しないように。
ぐるぐると鎖を巻いて、重しをつけて、動けないように縛り付けて。
間違えて、勘違いして、うっかり踏み外してしまわないようにと過ごしてきた。
そうでなければ、近くにいることすら出来なくなってしまうよ、と。
些細なことに舞い上がってしまいそうな自分に呪文のように言い聞かせ続けて三年あまり。
最初の頃こそ、もしも恋人だったらなんて想像くらいは楽しんでいたけれど、もうそんなことをしてみることもなくなったここに来て、はい両想いですなんて言われてもどうしていいかわからない。
わからないだけならまだいい。
私は、──怖いんだ。
「借りてきたって、きみ、それと寝るつもりか?」
「はい。一緒に寝たら暖かいだろうなって」
誰かと一緒に寝ると暖かい。
誰かでなく好きな人となら、熱くて、溶けちゃいそうで、気持ちよくて、少し苦しい。それを私に教えたのは、目の前のカミサマだ。
そのカミサマは少し不機嫌そうな顔で、虎の頭を抑えるように撫でつける。
「こいつじゃきみを暖めるには小さいだろう。もう少し大きい方がいいんじゃないか?」
「もう少し大きいって……鵺ちゃんですか?」
「それはわざとか?」
呆れの滲む声音に顔を上げると、薄い唇に苦笑が浮かんだ。
まただ、と思う。また、間違えた。
何かひとつ言うたびに気まずくて、以前の自分だったらなんて答えただろうと考えてみるのに、それらしいものが見つからなくて結局手近にあるものを返すばかりだ。
「あんな毛むくじゃらと寝たら、さすがに暑いんじゃないか?」
「暑いまではいかないと思いますけど。あ、でも鵺ちゃんがいなかったら獅子王さんが寒くなっちゃいますね」
「なぁ。本当に寒いのか?」
少し身を屈めた鶴丸さんが、私の顔を覗き込んでくる。
正面にある綺麗に澄んだふたつの金色。大好きなそれが、今は少しだけ苦手だ。
深奥の澱みを見透かされないように、「寒いですよ」と虎を見るフリで視線をはずしながら頷いた。
「寒い、ねぇ。その虎は返してこい。──いや、俺が返してこよう」
「ヤです」
「即答とは驚きだな」
「こっちが驚きですよ。せっかく借りてきたのに、なんで返しちゃうんですか」
「虎じゃなきゃ駄目な理由でもあるのか?」
「それは……なんというかあたたかいし、なんかこう抱っこして寝るのに丁度いいというか」
「それなら俺が解決してやろう」
ニィと悪戯を企む子どものような笑みを浮かべた鶴丸さんは、有無を言わせず私の腕の中の虎を抱き取ると、さっさと障子を開けて出て行ってしまった。
「安眠……」
情けない声が漏れる。
あの夜以来、あまり眠れなくなった。
昨夜に至ってはとうとう一睡もできず、あの虎ちゃんが苦肉の策だったのに。
恨めしい気持ちで障子を眺めても、ただため息がこぼれるばかりだ。
夜、布団にくるまるとどうしたって鶴丸さんとのあれこれが蘇ってきてしまう。そこできゃあきゃあと照れて悶えて転がれたならいっそいい夢でも見られるのかもしれないけれど、現実はそうじゃない。
あの日、翌朝目を覚ました時、鶴丸さんはもういなかった。
夢オチ。真っ先に思ったのがそれ。
いい夢でした。神様ありがとう。そう思った。
なのに。
体は重いし、足はガクガクだし、あんなのは審神者研修でどこぞの霊山に登山させられた時以来だった。いや、あの時より酷かったような気がする。
肌のあちこちに咲く痕に全部が現実だったのだと再確認して、幸せとどうしようを行ったりきたりしながら、昼ご飯だと鶴丸さんが呼びにくるまで布団に突っ伏したままでいた。
以来、鶴丸さんが優しい。
元々優しいカミサマだったけれど、そこに抱きしめたりキスしたりが加わって、なんというかとってもコイビトな振る舞いになった。
しかも、本丸のみんながそれをあっさりと受け入れていることにも戸惑った。
「よかったね、主。もうこのまま枯れてく気かと思ってた」
地味に失礼なことを開口一番そう言ったのは初期刀で。
「きむすめあいてに、かげんもしらないじじいですね!」
恥ずかしいことを大声で言ってくれたのが初鍛刀。
「おめでとう」だとか、「やっと」だとかを誰もが口にして、私が精一杯隠していたつもりだった想いは、本丸中の知るところだったと知り、いっそ消えてしまいたいほどに恥ずかしかった。
粟田口の部屋に虎を返したら、当然こちらに戻ってくるだろう。
さっきは咄嗟に、どうかしましたか、なんて訊いてしまったけれど、落ち着いて考えればわかる。恋人が夜に部屋を訪ねてくるなんて、それはつまりそういうコトだ。たぶん。
思い至れば、顔が熱くなって思わず両手で頬に触れる。
もう寝る準備は万端だったから、お布団は敷いてある。
あれこれを考えると恥ずかしいけれど、今夜はずっと一緒にいられると思えば嬉しい。嬉しいけれど、やっぱりため息も零れてしまう。
「なんでただ幸せだって思ってられないんだろ……」
望まないように、期待しないように。
間違えないように、勘違いしないように。
そう言い聞かせて過ごしてきた私のいったい何を、好きだと思って貰えたんだろう。
薄氷の上に立っているような心地だ。
望んだら。間違えたら。私はあっという間に冷たい水の中に堕ちてしまうんじゃないの?
「どうした? 獣の巣穴にでも放り込まれたような顔をして」
顔を上げると後ろ手に障子を閉めた鶴丸さんは、私の前にどっかと座る。
片膝をたてたその上で頬杖をつくと、もう片方の手が伸びてきてさらりと私の髪を撫でた。
不機嫌そうな気配なのに、触れる掌は穏やかだ。指先でくるりと肩にかかる髪を巻き付かせてはほどくのを幾度か繰り返されるうち、沈黙に耐えられなくなったのは私の方だった。
「あの、なにか怒ってますか?」
「怒られるようなことでもしたのか?」
「これといって特には……」
「……。ここ最近眠れてないのはなんでだ?」
「眠れないなんて言うほど大げさなものじゃ……たいしたことはないんです、本当に」
「そんなクマまでこさえて、十分たいしたことだろう。きみがひとりで悩んでいるなんて俺にとっては大問題だ」
「……」
「待っていても駄目だというのはこの何日かでよぉくわかった。ひとりで悩んで抱え込んで、どうにもならなくなる前にどうして俺を頼らない? 俺はきみのなんだ?」
「それ、は……。す……こ……、あ、えと」
何を言ったら正解なのかがわからない。
好きだと言われる前の私は、なんて受け答えをしていたんだろう。わからない。
だって、ずっとずっと好きだった。そんな人に好きだと言われて、奇蹟みたいな幸せを手にしてしまったら、もうそれが壊れないようにしたいって思うに決まってる。
だけど。
鶴丸さんが私にとってなんなのか。
そんなの、答えはひとつしかない。
口にしようとしたら、胸が苦しくなった。喉の奥に詰まってなかなか外には出ないそれをどうにか押し出すと、一緒に涙まで溢れてきた。
「す、好きなひと、です」
膝の上で両手をぎゅうと握りしめた彼女は、それだけ言うとほとほとと涙をこぼしはじめた。まさか泣き出すとは思っていなかった俺は、慌てて身を乗り出すと彼女の頭を胸に押しつける。
細い指先が襟元を縋るように掴むのを見下ろしながら背中に手をまわしてやると、想い人は素直に腕の中におさまった。
「すき、好きな人で、た、ぅ、たい、たいせつ、大切な人で……っ、きら、きらいにならな、で」
彼女の言葉に思わず眉を寄せる。
想いを告げこそすれ、嫌いになるだなんてあるはずない。それなのに、彼女はまるで離れていこうとする恋人に縋るように泣いているのだから、まったくもって腑に落ちない。無防備な姿を他の男に晒したことは腹立たしかったし、自分を頼らない彼女に焦れはしたが、その態度が彼女をここまで不安にさせたとも思えない。
「嫌いになるって……そんなこと、あるはずないだろう」
嗚咽を漏らすその背をそっと静かに撫でてやる。幾度かそうしてやりながら、彼女の霊気にほんの少し混じる気配に気付いた。
それは、呪詛に似ていた。けれども禍々しい何かではなく、彼女の霊力と同じように玲瓏で、どこかかたくなな何かだ。
「きみ……」
そうか、と思う。
言霊縛りによく似たそれはきっと、彼女が自身にかけた呪縛のようなものだろう。呪縛でおおげさなら、戒めといったところか。
唯人ならばそうまでならなかっただろうに、審神者を務めるほどの力を持つというのはつくづく厄介なことらしい。
「俺はきみを嫌いになったりしないぞ? やっとのことで手に入れた宝だ。手放すはずないじゃないか」
ようやく想いを告げたあの夜。同意を得たら、あとはもう止まれなかった。
最初こそ生娘であろう相手に精一杯の気遣いを発揮したものの、それはほんの最初だけ。途中からは恥じらう彼女が徐々に溶けていく様にこちらの方がすっかり溺れ、加減などまったく出来なくなっていた。
甘い声を耳に心地よく覚えながら、散々貪って。彼女が意識を手放した後ですら、柔いぬくもりを腕の中に捕らえ続けた。
障子の向こうが明るく白み始めても離れがたく、それでもせめて後朝のたしなみとどうにか体を引きはがして部屋を後にした。
彼女が長いこと想いを寄せてくれていたと知ったのは、全部を手に入れた後のことだ。
まさか気付いておられなかったのですか? などと、自分よりは遙かにそういうコトに疎いだろうと決めつけていた一期一振に真顔で言われた時の衝撃ときたら、刀身にヒビが入ったかと感じるほどだった。
そんな風に長く想い続けていてくれたという彼女が、審神者として、主として、どんな戒めを己に課していたかなんて容易に想像がつくというものだ。
ここ最近の彼女の不調は、これも原因の一端だろう。
そもそも、そんなことだって本来はこの子の口から聞くべきことで、つまりは互いに言を尽くす前に、肌を合わせてしまった。いや、合意こそあれ、なかば強引に押し切ってしまったと言ってもいい。
閨事においては太刀をも凌駕する短刀たちには生娘相手にがっつき過ぎだと呆れられ、平安太刀には「存外青いな」と笑われ、二度目の夜を今日まで持ち越してきたけれど、こんなことならもっと早くこうして訪れればよかったと背中を撫でてやりながら思う。
「俺はきみが好きだ。それなのに、なにがそれほど不安なんだ?」
嗚咽が収まり始めたその肩にそっと手をかけて促すと、そろそろと身を離した彼女が恐る恐るという態でこちらを見上げてくる。
濡れた眼差しが愛しくて、誘われるようにその目尻に唇を寄せると、小さく体が震わせた。
「わたし……」
「うん?」
「どうして鶴丸さんが私なんかを好きになってくれたのか不思議なんです。鶴丸さんが好きになった私はどんななんだろうって……。だから何をどうしたら嫌われないで済むのか、よくわからなくて」
「だから、どうしてそう嫌われる前提なんだ」
頑ななのがいっそ滑稽で、くすくすと声をたてて笑うと腕の中の彼女は唇を尖らせる。そんな様すら可愛らしいのに、どうして嫌われるなどと思うんだか。
尖ったままの唇に口づけをひとつ落としてから、「そうさな」と考える。
「なんで好きになったかなんて俺が訊きたい」
零れ落ちた本音に、彼女が息を詰めて身を固くするのを感じ、「いや待て。だから」と言葉を継いだ。
「そうだなぁ……。
いつも朝の寝起きが悪くて、敷き布団にしがみついて離れないまま畳に転がったことがあったな。あれは可愛かった。
寝ぼけた顔で舌ったらずに挨拶をするきみの姿は、本当を言えば誰にも見せたくなかった。近侍でない朝も誰より早くにここに来ていたのは、そういう理由だ」
「……」
「菓子なぞ食べてる時の顔は、それを取り上げてその口を吸ってみたいと思うほどに可愛いなんて俺が思っていたなんざ、考えてみたこともないだろう?
ついぞ腹を立てたのを見たこともなかったきみが、政府の奴らが無茶なノルマを課してきた時には真っ向から噛みついていたな。俺たちにどれだけ負担がかかるのかわかっているのかと食ってかかるのをみて、あんな顔もするのかとな、あれは驚いた。そうだな、きみが他にどんな顔をするのかと興味がわいたのはあの時だろうな。
手入れの後にはいつも泣きそうな顔で閉じこもって、平気な顔が出来るようになるまで出てこないだろう? この部屋に押し入って、腕の中で慰めてやりたいといつも思っていた。
……あー、まあこれじゃあ答えにはならんな」
どう伝えればいいのかと考えながら腕の中の彼女を見れば、不安の色が陰をひそめた眼差しを一心にこちらに向けている。
あの夜でさえ、こんな風に挙げ連ねて伝えたわけでもない。戦で駆け回る時よりもよほど早鐘を打つそれが、腕の中のきみに聞こえているんじゃないだろうかと思う。
それでも、大切なきみの不安を少しでも拭えるならそれでいい。
鼓動を共有できるほどに抱きしめて、今一度想いを告げる。
「いつの間にか好きだった。どうしてもきみがいいと思った。きみがそうして笑ったり泣いたり、そのままでいるのを好きになったんだ。異形の俺が想いを告げて、あまつさえその身を奪うことの意味をこれでも散々考えて悩んで、それでもどうしても欲しかった」
「……」
「今更きみが何をしたって嫌いになるはずもないだろう。本当に、いつの間にこんなに愛おしくてたまらなくなったんだろうなぁ」
そっと身を離して口づけると、ようやくほどけたように笑みを浮かべる。
そのままゆるりと横たえると、途端に困ったように視線を彷徨わせ、慌てたように口を開いた。
「どうしよう」
「ん?」
「こんなに好きで……。私、……よくばりになっちゃいそう、です」
「きみは欲ばりになるくらいで丁度いい」
間近にその目を覗きこめば、とろりと溶けたように目を細め「今日はこのままいっしょにいて、くれますか?」などと可愛い科白を口にする。
「もちろんだ。だいたいこの状況で部屋に帰れなんて薄情なことは言ってくれるなよ?」
「……おきるまで、いて、くれる?」
「きみが望むなら」
「う、ん……」
閉じた瞼に、鼻先に、その頬に、触れるだけの口づけをする。
様子を窺いながら、うっすら開いた唇を指でなぞってふと気付く。彼女は既に、夢の中だ。
「きみ……」
「……」
「……寝たのか? この状況で?」
「……」
「きみなぁ……」
よりにもよってここで寝てしまうのかと、いっそ笑いが込み上げてくる。
でもそれも道理だ。なにしろ彼女は寝ていない。
ここ数日はろくに、恐らく昨日辺りは一睡もしていないだろう。そのくらい、生気のない酷い有様だった。
他の刀剣からは原因はお前しかいないと尖った視線をいくつも向けられたが、あいにくろくに寝かしてやらなかったのはあの日だけで、以来夜には「おやすみ」と部屋に送り届けるだけにとどめていた。
何かあったのかと、なにくれと話しかけて構ってみても、彼女は頬を染めながらも困ったように笑ったり、何かを言いかけてはやめてしまったりでさっぱりだった。
恋仲になったからといって、あまり急に距離を詰めるのもどうかと思ったが、今回のことでよくわかった。彼女は無理矢理に甘やかすくらいが丁度いい。
そうしているうちに少しずつ、彼女の中に息づく戒めもほどけて消えていくだろう。
「きみが考えているよりももっと、俺はきみが好きだと思うぞ?」
不器用で甘え下手で、それすらもこんなに愛おしい。
抱き上げて布団に寝かせてやってから、その頭の下に腕を差し込んで抱き寄せる。
髪に口づけてやれば、シャンプーの香りが鼻孔をくすぐる。最初の夜にも感じたこの香りを間近に感じて、体はしきりに未昇化の欲を訴える。
すっかりその気になっていた熱は逃がしようもなくて途方にくれるが、それでも、この穏やかな眠りをただ守りたいと思う。これが心が満たされるという奴だろう。
彼女はいつも心の在処を示してくれる。
それはけしてあたたかい気持ちばかりではないけれど、陰にも陽にもふれるそれが己が内にも宿っているのを強く知らしめる。
きみと共に在る限り、俺の心が死ぬ日はやってこないだろう。
「まったく、驚きだな……」
溢れてくる愛しさを感じながら瞼をおろす。
明日の朝は、明るくなってもきみが目を覚ますまでは抱きしめたままでいよう。
もう不安になる隙など与えないように。