2018年5月ワンライログ(鶴さに)

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pawoo 刀さにワンライ 5月のお題『背くらべ』
今回は1時間でイケました‪♡‬
サイト再掲にあたって、二行ほど加筆。

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 三歳差というのはなかなかに残酷だ。
 大人になってしまえばどうということもないであろうそれは、十代まではどうしようもなく立ち塞がる越えられない壁だ。
 隣に住む幼馴染みにして、従姉である彼女は年上とは到底思えないほどに頼りなく、守ってやらなければと幼心に強く思ったのを覚えている。それなのに、ほんの数日前までは一緒にランドセルを背負っていたはずの彼女は、一足先にブレザーの制服姿でどうしようもない年の差をつきつけ、ようやくこちらがブレザーに袖を通すようになった年、今度はセーラー服へと装いを変えてしまった。
「つる~おいで~」
 リビングのドアから顔を覗かせて、おいでおいでと手招きするその唇は淡いオレンジの口紅で彩られている。この春、大学へと進学した彼女は当たり前に毎日化粧をするようになった。
『化粧なんざしなくたって十分かわいいぜ?』と言ったのは桜がすっかり散った先月のこと。
 化粧をした彼女もそりゃ可愛い。可愛いというよりも、綺麗というべきだろうか。まだまだ幼げな雰囲気を残していたはずの彼女を、ぐんと女へと引き上げてしまうその顔を、他の男に見られているのも癪で、だから化粧などやめてしまえと言ったのだ。
『おぉ、言うようになったねぇ』
 軽く目を瞠った彼女は、すぐに破顔して『鶴のくせに生意気~』とくすくすと笑うばかりだったけれど。
「早くおいで。測ろうよ」
 もうこどもの日を祝うような年齢でもないと思うのに、節句だ誕生日だともなれば、両家合同で祝うのが常だ。そして、年に一度、端午の節句に、廊下の柱に身長の記録を残すのもまた両家の習慣だった。

 ふたつ古い柱の傷をつける頃、己が切望したひとつを手にしたのだと思い出した。
 枯れ枝のように細くかさついたその指先が、どれほど包んで温めようとも二度と熱を帯びることがなかったあの日。同じ時間を生きられない、始めから知っていたはずの命の理の前に打ちひしがれた。
 あの絶望に比べれば、三年の差などかわいいものだ。
 
「あれ? もしかして鶴丸、私より背高くなってない?」
 ほんの昨日まで、少しだけ目線が上だったはずの彼女と正面から見つめ合う。ここのところ互いの家を行き来することもあまりなかったから、靴を脱いだ彼女に並ぶのは久しぶりだ。あの頃のように見下ろすに到らないとはいえ、見下ろされずに済むのはなかなかに気分がいい。
「成長期だからって一気に伸びすぎじゃない?」
「そりゃ、ヒールを履いてないからだろう」
 不思議そうに首を傾げる彼女に種明かしをしてやれば、そうかと笑みが返った。
 姉のような顔でいるいつかの雛鳥は、それを覚えている様子は見受けられない。もっとも、覚えていようといなかろうとも、このまま弟の皮を被ったままでいる気はさらさらないのだ。
「さあて、驚いて貰おうじゃないか」
「ん? なんか言った?」
「いいや?」
 再び小首を傾げる彼女の頬をするりと撫でた。
 
 


  
 
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