嘘からでた実

「先輩、ここでキスしてください」
「はあぁぁ!? おまえ熱でもあるんじゃねえか?」
村と違って、誰もふたりのことを知らない場所。
けれど、村とは比べものにならないほどにたくさんの人、ヒト、ひと。
「してくれないなら嫌いになります」
つーんとそっぽを向いてみる。
誰かに見せつける趣味もないし、愛情を試そうと思ったわけでもない。
ただ今日がそうだと気付いたから、言ってみただけ。
「おい」
「……」
「珠紀」
「……」
横目でこっそり窺えば、困惑した真弘先輩の表情。
眉間に皺を寄せている。
怒るかな? そろそろやめたほうがいいかも。
「なぁんて、今日は…──っ!?」
エイプリルフールです、と言い損ねたのは、素早く触れた唇のせい。
「ったく、恥ずかしいことさせてんな」
耳まで真っ赤にしてボソリと言った先輩に、ホントにするとは思いませんでした、とはさすがに言えない。
「行くぞ」
「……はい」
どうしよう。胸のドキドキが止まらない。

緋欠片