「真弘先輩の『弘』の字は『スケール・度量が大きい』って意味なんですね」
大蛇家でのテスト前対策勉強会も、主催兼お目付役が席を立てばすぐに脱線していく。
珠紀は漢字辞典で見つけたそれを、誰に伝えるともなく言った。
「ま、名は体を表すっていうからな。俺様の名前なら当然っちゃあ当然だ」
既に教科書すら開いていない真弘が得意げに頷く隣で、ノートの下に隠したクロスワードを解く拓磨が顔をあげずにボソリと異議を唱えた。
「……表して、ないんじゃないすかね」
「なんだ、拓磨。なんか言ったか?」
「空耳ですよ。えー、タテのカギは……」
「いや、度量はあくまでも内面のことだ。見た目ではわからない」
寝ているかに思われた祐一がおもむろに参加してくる。
拓磨の異議を一見否定するニュアンスで、その実含みのある言い方に真弘の頬が少しばかり引きつった。
「ちょっと待て。この見た目にも溢れ出ている俺様のスケールのでかさが……」
「あぁ、なるほど。度量もスケールも外から見てわかるものではないですよね」
真面目に問題集に取り組んでいた慎司は、真弘の発言などまったく聞かずに頷いている。
「無視して納得してんじゃねーぞ、コラっ!」
「そうだ。度量が広い、とは言うが、度量が高い、とは言わないからな」
「「「なるほど……」」」
「だから、納得してんじゃねえっ」
盛大な抗議が響き渡ったそこに「楽しそうですねぇ、鴉取君」と、お目付役がすかさず戻ってきたのは言うまでもない。