逢ふ人からの秋の夜なれば

「ふふ、初めて会った頃も可愛らしいお嬢さんでしたが、それにますます美しさが加わって、見惚れるばかりですね」
ヒノエの母である丹鶴を訪ねて前別当家を訪れると、久しぶりに会う見知った顔が、おっとりと茶をすすっていた。
弁慶である。
秋に熊野近辺でしか採れない薬草の種子や実を集めに来たのだと笑った彼と顔を合わせるのは、およそ半年ぶりだ。
婚儀の後、九郎たちからの祝いの品を持って駆けつけた弁慶は、あの時も春にしか採れないという薬草を山ほど摘んでいた。
「弁慶さんってば」
頬を染めた望美は、手の中の椀に視線を落とす。
その姿もまたどこか艶めいて見えて、弁慶は戦場で剣をふるっていた頃の望美を思い出しながら、椀を口に運んだ。
平家との戦と並行して行われた、八葉による『龍神の神子』争奪戦の日々。
まさか甥っ子に勝ちを攫われてしまうとは、思いもよらなかった。
いや、予想通りと言うべきだろうか。
ヒノエが望美を本気で想うようになれば、熊野水軍の助力を望む源氏にとって、多少は事態が好転する可能性も出てくるはず。
軍師として、そんな目論見がなかったといえば嘘になる。
けれど、甥っ子を焚き付けたのはそれだけの為でもなく、それまで色恋にどこか醒めた目を向けていたはずの彼が、自覚しているのかいないのか、望美に惹かれていることに気づいていたから、というのが大きい。
もっとも、『龍神の神子』が天つ世界に帰るよりも熊野を ── ただひとりを選ぶと確信してはいなかった。
こうして穏やかに笑う彼女を前にすれば、この地での生活も推して知るべしといったところで、あの時の望美の選択は間違いではなかったのだろう。
「ほほ。私の目の前で、うちの嫁を口説かないでくださいな、弁慶殿?」
「義姉上。ふふ、口説いてなどいませんよ。花仙のような姫君ふたりと過ごせる幸せを、噛みしめていただけです」
「相変わらずお上手。ところで望美さん、今日は用事があって来たのでしょう?」
「えぇ、はい」
話をふられて、望美はチラと弁慶に視線を投げた。
「僕ははずしましょうか?」
すぐにそれに気づいた彼は腰を浮かせかけて訊ねたが、望美はそれを引き留めた。
確かに弁慶相手に言うのは憚られる内容ではあるけれど、彼ほどこの件の相談役に適した人物もいないように思える。
言葉を選べばどうにか大丈夫だろうと考えて、望美は話を切り出した。
「あの……眠り薬が欲しいんです」
「眠り薬? 眠れないんですか?」
眠れないわけではない。
もしも今、ひとりで褥に寝転がれば、すぐに眠ることができるだろう。
問題は、夜、ひとりではないからだ。
そうでなくとも寝苦しい夏はもちろん、ようやく心地よい秋風が吹き抜けるようになった近頃も、相変わらず毎夜ヒノエに求められて、望美はすっかり寝不足に陥っていた。
「眠れない、というか」
寝かせてもらえないんです、とはさすがに言えなくて、言い淀んでいると、丹鶴も弁慶も不思議そうにこちらを見ている。
「もう暑気あたりという季節でもないでしょうが、そういえば少し顔色が悪いような。どこか具合でも? 食欲はどうですか?」
「まぁ、望美さん。そういうことはもっと早く言ってくれれば、すぐに薬師をやりましたのに」
「いえ、そんなことは」
顔の前でひらひらと振った望美の手を、ちょっといいですか? と弁慶が神妙な面持ちでとる。
脈をとられたところで、異常などあるはずもない。
ただただひたすら寝かせて貰えないだけで、原因はこれでもかとはっきりしているのだ。
「私じゃなくて、ですね」
「それでは、ヒノエが?」
現在、望美たちの邸には、下働きの者たちを除けば、ヒノエと望美しかいない。
消去法で残った方を思い浮かべても、あのヒノエに限ってはそんな薬が必要になることなどどうにも考えられなくて、弁慶は半信半疑で問うた。
「いえいえ、ヒノエくんは大丈夫そうです」
「でしょうね。それではいったい誰のための薬ですか?」
「その……。ヒノエくんに」
「???」
要領を得ない説明が望美らしくないと思いつつも、弁慶は質問を変えてみた。
「薬が必要なのは誰ですか?」
「私です」
「飲むのは誰ですか?」
「ヒノエくんです」
「眠れないのは君ですね?」
「……はい」
ここまで来て、ようやくふたりは望美の言わんとすることがわかった。
つまり夜の間中離してもらえないせいで寝不足に陥っている望美が、ヒノエに一服持って睡眠時間を確保したいということなのだ。
「まぁ」
「なるほど」
さすがに『そういうコト』だと気づかれたに違いないと恥ずかしく思いながらも、そろりとふたりを見ると、丹鶴はほんのり頬を染めて何事か思案し、弁慶は満面の笑顔だった。
その笑顔が、なんとなくアヤシイ迫力を備えている気がして、望美はごくりと生唾を飲む。
「それならば、調度いいものがありますよ」
弁慶は部屋の隅に置かれた大きな木箱まで歩いていき、なにやらごそごそと取り出すと、再び望美の前に腰を下ろした。
「これです」
弁慶が差し出した掌の上には小さな包み紙がひとつ。
受け取って、カサコソと開くと、それはほんの小指の先ほどの、真っ黒で小さな丸薬だった。
「これ、は?」
「三日は効果が続くと思います」
弁慶は望美からそれを受け取ると、再び綺麗に包み直して、望美の前に置いた。
「三日? いえ、三日間も眠らなくていいんです。とりあえず一晩だけ」
「大丈夫ですよ。三日間眠り続けるわけではないですけどね。きっと君の願いは叶うと思いますよ?」
「弁慶殿。それは本当に三日間で効果がきれるのですね?」
弁慶の取り出した薬がどんな類のものか察した丹鶴が、不審そうに口を挟む。
「心外ですね、義姉上。熊野別当家存続に害為すことを、僕がするはずないでしょう」
「ならば、いいのだけれど」
望美は小首を傾げてふたりのやり取りを見ていた。
望美の安眠問題が、どうして熊野別当家存続問題にまで発展したのか、まったくもってわからない。
ただ丹鶴が了承し、弁慶が大丈夫だというのだから、睡眠薬が効き過ぎる心配はないだろう。
望美は置かれた包み紙を再び手に取ると、それをまじまじと見つめた。
まさか、そのまま飲んでと差し出すわけにもいかないけれど、こんな塊をこっそり飲ませるのは無理に思える。
砕いて粉にしたら、なにかに混ぜることもできるだろうか。
「無味無臭ですし、水に入れればすぐに溶けてしまいます。酒にでも混ぜればヒノエ相手でも絶対に気づかれませんから、大丈夫ですよ」
困惑顔の望美に、弁慶がにこにこと説明する。
「僕の特製の薬ですからね。効果は保証します」
「はあ。……? 楽しそうですね、弁慶さん」
「そう見えますか? ふふ、君の役にたてることがあって、嬉しいだけですよ」
酒に混ぜ込むなどとは、なんだか毒でも盛る気分だ。
もっとも気分どころか、本当に一服盛るのだけれど。
「ヒノエには、僕と会ったことは伏せておいたほうがいいですよ。余計な警戒はされないにこしたことがないですから」
「ほほ、では私も可愛い嫁の為に、烏たちに口止めしておきましょうね」
望美は楽しそうに目を合わせる丹鶴と弁慶と、手の中の包み紙を交互に見るばかりだった。
 
 
 
 ◇  ◇  ◇  
 
 
 
現代っ子の、ましてや一般家庭で育った望美にしてみれば、家にいわゆる使用人と呼ばれる者たちがいるのは、このうえもなく落ち着かないことだった。
なにしろ幼い頃から、『自分のことは自分でしなさい』と躾けられてきたのだ。なにもかも他人にやってもらうなど居心地が悪いことこの上ない。
よって藤原家では、望美自身のたっての願いで、食事の支度や片づけなども、自ら厨に入って他の者たちを手伝うのが常だった。
 
夕餉の後、厨で片づけを手伝いながら、望美はヒノエ用に用意されたらしきものに目を留めた。
「これ、ヒノエくんの?」
「えぇ、今日はいい鮎が手に入りましたから」
酒とともに並べられているのは、彼の好きな落ち鮎の甘露煮だった。
「じゃあ私、持って行きます」
「足下、お気を付けくださいね」
「はい」
日頃から厨の手伝いをしていてよかったとつくづく思いながら、誰も見ていないところで一度膳を降ろして、酒の中に丸薬を落とす。
なんとなく心配で、ちゃんと溶けるように軽く振ってみてから覗き込むと、薬は綺麗に消えていた。
 
『君は顔に出てしまいますからね。ヒノエに飲ませる時には、傍にいないほうがいいかもしれません』
 
弁慶の言いつけを反芻して、ヒノエの元へ膳を運んだ。
 
「ありがとう。へぇ、鮎か。いいねぇ」
膳に並んだ好物を見つけ、ヒノエは楽しげに言いながら、杯を差し出す。
望美はドキドキしながらも、そこにいつものように酒を注いでやった。
「姫君も一緒にどう?」
「う、ううん。お腹いっぱいだし、もう少し片づけがあるから食べてて。すぐ終わると思うし」
満腹というのは本当で、毎日でないとはいえ、夕餉の後に更にこんな風に食べたり飲んだりできるヒノエにはいつも驚かされる。
もっとも、十代の男の子なのだから、案外このくらいは当然なのかもしれない。
「そう?」
「うん」
忙しい素振りで厨に戻り、望美はホッと息を吐いた。
 
『そんなに時間はかからずに効いてくるはずです』
 
これで今夜の安眠が確保されたと思うと、自然と望美の足取りも軽くなった。
 
ヒノエにされるのは嫌ではない。
でも、嫌ではないから困ってしまうのだ。
本当に嫌ならば拒むことができるし、ヒノエは望美が心から嫌がるようなことは決してしない。だから問題なのは、流されてしまう自分にあると、望美自身わかっている。
いずれにしても、今日は望美を流そうと誘いかける相手は、すぐに眠ってしまうだろう。そうしたらそのぬくもりに寄り添って眠ればいい。
そんなことを思いつつ、望美は無邪気に厨での手伝いを再開した。
 
 
 
 ◇  ◇  ◇ 
 
 
 
おかしい。
そう思いながら、望美はもう一度ちらりとヒノエの様子を窺った。
晩酌はおろか、湯浴みを済ませた後でさえ、彼は一向に眠る気配はない。あくびひとつせず、眠そうな素振りすらないのだ。
「鮎、おいしかった?」
望美は湯上がりの濡れ髪を拭って、丁寧に櫛を通して香油を塗っていた。
「あぁ。……? やっぱり食べたかった?」
「う、ううん。好物がおつまみだと、お酒がすすむんだろうなぁって、ちょっと思っただけ」
「そうだね。今日は酒もいつもと違って」
「違ったの? まずかった?」
思わず髪を梳く手を止めて問う。
「いいや。いつもより旨かったかな」
「そうなんだ。よかったね」
薬は全部飲んだのに、効かなかったということだろうか。
「姫君が隣にいてくれたら、もっと旨かったと思うけど、ね」
厨からなかなか戻らなかった望美にさらりと恨み言を言ったヒノエは、静かに歩み寄ると、ごめんねと謝る彼女の手から櫛を受け取り、その長い髪を優しく梳き始めた。
「……気持ちいい」
望美はヒノエに髪を梳いてもらうのが好きだった。
優しく心地よい感触に、うっとりと目を閉じる。
「閨でもそのくらい、いつも素直に言ってくれたらいいのにね、姫君?」
「そっ、それとこれとは別」
「ふーん」
櫛を通しながら、空いた手が戯れに首筋や頬を撫でる。
ほんの微かに触れるその感触が、望美の背筋に甘い痺れを走らせた。
「……っ、そういうことするんなら、櫛返して」
「もうちゃんと梳いたよ」
ヒノエは望美を背後から抱きしめると、かぷりと耳を甘噛みする。
「ヒノエくっ…ぁ…」
衣の合わせ目から手を差入れて、柔らかなふくらみを包むと、望美はクタリと力を抜いて背後のヒノエの方に倒れてきた。
「……こんな…ところで…駄目…っ…んっ」
「どうして? 閨じゃなくてここなら、素直に言ってくれるんだろう?」
気持ちいいって…。
そう耳元に囁きかけながら、ヒノエはようやく己の異変に気づいた。
気分的には準備万端。
それなのに、躰の準備が整っていないような気がする。
いや『気がする』でなく、整っていないのだ。
いつもなら熱く勃ちあがっているはずのそこに、熱の集まる気配もない。
「はっ……ぃや…っ」
この状況で、まさか触って確かめるわけにもいかないが、間違いなく己が雄は無反応だ。
嫌な汗が背中を伝っていく。
いまだかつてない事態に、滅多に動揺することなどないヒノエの心臓も、バクバクと焦りを刻み始めた。
「…ノエくっ、あぁ…」
指先と舌で誘い出す甘い声は、確かに腰を直撃しているのに、ぴくりともする気配がない。
男の股間──否、沽券に関わる一大事だ。
「い…や…」
さて、どうしたものだろう。
「ヒノエく…おねが…」
嫌がる望美に譲歩するフリで、今日はなにもせずに寝てしまおうかと、ちらりと思う。
けれどここまで望美を煽っておいて、それはなんとも薄情な気がするし、なにより自分が、望美を欲しくてたまらないのだ。
「ここじゃ…やだ…っ…」
「わかったよ、姫君」
ヒノエは望美の髪に口づけを落とすと、望美をそっと抱き上げた。
閨まで運びながらも、あれこれ考えを巡らせたものの、とにかく勃たないものは勃たないのだ。
なにかおかしな物でも食べただろうかなどと考えながら、そっと望美を褥に降ろしてやると、彼女は吐息とも溜息ともつかない息をついた。
頬に手を添えて口唇を寄せていくと、望美は目を閉じることもなく、じっとこちらを見ていた。
「なに?」
「ううん…ヒノエくん…お酒飲んだよね?」
「……? 飲んでないって、言ったら?」
「飲んでないの?」
ヒノエはようやく望美の様子がおかしいことに気が付いた。
そういえば今日はやけに、鮎や酒にこだわってはいなかっただろうか?
この様子なら、原因は ── 酒?
「……。ひどいな、望美。オレにあんなもの飲ませようとするなんてさ」
「えっ! いつ気づいたの? だって弁慶さんは絶対気づかないって」
 
── あいつかっ!
 
「ふーん。弁慶、ね。どういうことかな? 姫君」
どんな意図かは置いておいても、こんな妙な薬を持っているのは、熊野広しといえどもそうそういるはずがない。
薬の出所が弁慶だというならば、あっさり納得できるというものだ。
「あ……」
しまったという表情で口を覆う望美は、気まずそうに視線を泳がせた。
「それで? 姫君。解毒薬も一緒にもらったのかい?」
「解毒薬? ないよ、そんなの」
「──っ!」
つまりそれは、この状態を治す薬はないということなのだろうか。
一瞬呆然としたヒノエの耳に、思わぬ言葉が届く。
「だってあれ、効果は三日だけだっていうし」
「三日……」
つまりこのひどい生殺し状態は、三日も続くのかと気が重くなる。
そんな心中に気づかない望美は、更に言葉を続けた。
「そんなに強くないから、丹鶴さまもそれなら大丈夫って言ってたし」
 
── そっちもかっ!
 
更なる共犯者の名前に、一気に脱力してしまう。
「ヒノエくん?」
げんなりしてしまった様子が心配になったのだろう。不安そうな声がかかる。
ヒノエは溜息をつくと、望美の上からどいて、その隣に突っ伏すようにうつ伏せた。
我が母ながら、とんでもない薬を息子に盛るものだ。
もっとも丹鶴が一枚噛んでいるのならば、この状態がいつまでも続くはずがない。
本当に三日くらいで、効果はなくなるのだろう。
なにしろ彼女とて、一日も早く孫の顔を見たいと思っているのだから。
「ヒノエくん? もしかして本当は飲んだの? 薬効いてきた?」
戸惑う声音に、寝そべったまま望美の方に体を向けた。
顔にかかる髪を梳き上げてやると、不安げな眼差しでこちらを見つめている。
「飲んだよ。ねえ、あの薬…お前なんだと思ってる?」
「なにって、眠り薬でしょう?」
なるほど。彼女は知らないのだ。今ヒノエの体に、どんな異変が起きているのかを。
「違うよ」
「えぇっ」
望美はヒノエの言葉に飛び起きた。
「どこか具合悪い?」
「悪いねぇ」
「ど、どうしようっ、そうだ、弁慶さんを呼べばっ」
冗談じゃない。
こんな状況を一番面白がるに違いない男を呼べるはずもないし、今はその必要もない。
「まぁ、とりあえずさ、姫君」
望美の髪を一房クイと引っ張って。
「なんでこんなことになったのか教えてくれない?」
「………」
 
望美が洗いざらい白状する羽目になったのは、言うまでもない。
 
 
「そういうことならお仕置きが必要だと思わない?」
事の顛末を聞いたヒノエは、薬を差しだした時の弁慶と同じような笑顔で望美に詰め寄った。
思いません、と。
望美がふるふると首を振っても、それは当然のように黙殺される。
弁慶の薬の効果を知った望美は、驚きつつも、ようやく丹鶴と弁慶の間であの時交わされた会話の意味を知った。
どうりで話が『熊野別当家存続』にまで及んだはずだと納得はしても、今目の前の危機を回避するには、何の役にも立ちそうにない。
「だ、だってヒノエくん! 今日はできないでしょうっ」
「………」
すっと細められた目に、望美はまたもや自分が失言を吐いたことに気付き、声を失った。
「ふふ、オレもなめられたもんだな。ねえ、姫君?」
笑顔なのに目だけは笑っていない表情で、ヒノエがかみつくように口づける。
「んっ…ふ…」
「オレは他でも充分お前を満足させられると思うよ?」
「で、でも、ほら、変な薬を飲んだ時は安静にしたほうが…」
「それを飲ませたのは、誰だったかな?」
「……ごめんなさい」
知らなかったとはいえ、ヒノエに薬を盛ったのが望美である以上、なにか反論できるはずもない。
「ま、いいけどね」
いいなら許してくれればいいのに、とは言えない。
もうこれ以上はなにを言っても、火に油を注ぐ結果になりそうだからだ。
「今夜は欲しがられてもあげられないし。泣くのはお前のほうだろうね」
 
その言葉通り、いつもよりもはるかに濃厚に、念入りに、声が枯れるまで啼かされて。
その後二日間、同じ仕打ちを受けた望美は、薬の効果が切れて無事に復活を遂げたヒノエに、それまでを取り戻すほどの行為を強いられる羽目になった。
 
「ただもうちょっと、寝たいだけだったのに……」
秋の夜風に、望美の溜息がひそやかに溶けた。
 

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