そのうち書きたい鶴さにネタ冒頭

 掘り出し物件だったと思う。
 三階建ての二階。築三十年のわりに外装も内装もいたって綺麗で古めかしいところはまったくない。駅からも近いし、斜向かいにはコンビニがある。玄関のドアを開けたらすぐに六畳の台所。続き間はなんと十二畳ある。これならベッドを置いたって寛ぎスペースを確保できる。……まあ今は布団だけど。
 バストイレ別。礼金更新料なし。これで家賃三万円。
 事故物件を疑って、某事故物件情報共有サイトをその場で調べてみたけれど特段アヤシイ情報はない。この近隣で同じ間取りの家賃相場は八万円だ。あまりのお得情報に胡散臭さは感じたけれど、ここほどお得な物件はない、ここで決めないと他の方ですぐに決まってしまいますよとの不動産屋さんに押し切られ、その場で即決した。
 それが間違いだったのだ。
 地元を遠く離れた私には、引っ越しを手伝いに来てくれるような友達もいない。かといって、引っ越しお任せパックなるお手伝い人員を金でどうこうできるほどの財力もない。結果。土日で少しでも片付けなければと黙々とダンボールを開封しては方々に納める作業に勤しんだというのに相変わらず部屋の中にはダンボールが積み上がっている状況だ。ただ、土曜の夜も日曜も、お化けがでるでなく、不審な気配も物音もなく、どこかああやはりソウイウ物件ではなかったと安心はしていた。
 引っ越したんだって? 片付け大変だろう、なんて口先ばかりで今日も残業発生するほどの書類をデスクに積んで行った課長は箪笥の角に小指をぶつける呪いをかけてやりたい。
 どうにか寝るスペースと台所で水道とコンロが使える状態にはなったものの、今夜も少し頑張らないといつまでたってもダンボールたちとさよなら出来ない。
 コンビニで温めて貰ったミートソースパスタ入りの袋を下げて、仕事に疲れた重い足取りで階段を昇り、玄関の鍵を開ける。ドアを開けてもまだ自分の家という匂いはしないけれど、それでもホッとした心地になる。
 玄関にあるスイッチをぱちりと入れれば台所の蛍光灯が灯り、ああ帰ってきたと肩の力も抜けた。
「はぁ……ただいまぁ……」
 誰もいない部屋に、なんとなく帰還の挨拶をしてパンプスを脱ぎかけた、その時。
「おかえり。お疲れさん」
 すぐ背後から男の声が聞こえ、心臓がひゅんと縮み上がった。
「──!」
 靴を脱ぎ捨てて台所に上がり、玄関を振り返る。
 と。
 居た。
 なんか居た。
「おいおい、くたびれているとはいえそう雑に脱ぎ捨てるもんじゃ……」
 白い着物を着た男だった。フードのようなものがついている変わった衣装に、刀まで手にしている。髪まで白いその男は、脱ぎ散らかった靴に手を伸ばそうと屈みかけ、凝視している私を見つめると不思議そうに首を傾げて背後を振り返った。
「な、な、な……」
「……? なんだ。きみの苦手な油虫でもいたかい?」
「な……」
「な?……、──! まさかきみ俺のことが見……」
「南無阿弥陀仏うぅぅぅぅぅぅぅっ!」
 私は転がる勢いで部屋の奥へと逃げ込んだ。