緋欠片

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好み

  「祐一先輩、ブラックですか?」 「ああ」 スプーンで自分のカップをかき混ぜていた珠紀は、何も入れずにカップに口をつけた祐一に声をかけた。 宇賀谷家の居間には、コーヒーの馥郁とした香りが漂っている。 ゴールデンウィーク。 連休...
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記憶の欠片 第3章 3度目の口づけ

「主来たれり」  唱えて押した扉の向こうは真っ暗で、少し不気味に感じる。  懐中電灯で照らしながら、電気くらいは設置すべきかもしれないなどと考えつつ、珠紀は棚の間を歩く。  和綴じの背表紙に文字のない書物も多いこの中から、必要な情報を...
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much sweeter

「甘い物は好きじゃないって言ってませんでしたか?」  そう言いながら、珠紀はお弁当のつくね団子を頬張った。  しょうゆの香ばしいタレの匂いに誘われて、彼女の弁当箱に手を伸ばす。  その甲をぺしと叩いた珠紀は、「先輩の分にも入れておいた...
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記憶の欠片 幕間 正義の規範

 鬼斬丸という頸木がなくなった今、あの異形の力を檻に留めておくものはない。  だから急ぐべきなのだ、と男は主張した。  最初に狙われるのは、玉依姫と守護者のみ。  自信ありげにそう断言し、あれらを消し去ったら、そのままあのカミも結界で...
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記憶の欠片 第2章 当代玉依姫

 昼休みを告げるチャイムが響き、一目散に教室を飛び出した珠紀は、屋上へのドアを前に深呼吸をひとつ。 (先輩、もう来てるかな?)  早く逢いたくて駆けてきたのに、そのドアの向こうに真弘が居るかも知れないと思うと、ノブを回す手が止まる。 ...
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記憶の欠片 幕間 甘い匂い

 ここまで確実に追ってきたはずの気配が、突然かき消すように途絶える。こんなことはもう何度もあった。 「ちっ、見失ったか」  舌打ちをして、周囲を見渡すが、あの独特の暗く淀んだ気配も匂いもなく、ただカミ達のささめく気配と森の静寂があるばか...
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嘘からでた実

「先輩、ここでキスしてください」 「はあぁぁ!? おまえ熱でもあるんじゃねえか?」 村と違って、誰もふたりのことを知らない場所。 けれど、村とは比べものにならないほどにたくさんの人、ヒト、ひと。 「してくれないなら嫌いになります」 ...
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記憶の欠片 第1章 空白の記憶

訊いてみたいことがある。   怖くて言い出せずにいること。   傍にいてもいいですか?   先輩は『玉依姫』を──                * * *         「真弘先輩」 「ん?」 ...
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Joy to the world

「腹の具合でも悪いのか?」  明日からは冬休みという朝。  いつもなら子犬のように目を輝かせて、見ているこっちがいつ転ぶかとハラハラする勢いで石段を降りてくる珠紀が、今日は様子が変だ。  終業式ということでいつもより軽いはずの鞄を手に...
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scale ≠ height

「真弘先輩の『弘』の字は『スケール・度量が大きい』って意味なんですね」 大蛇家でのテスト前対策勉強会も、主催兼お目付役が席を立てばすぐに脱線していく。 珠紀は漢字辞典で見つけたそれを、誰に伝えるともなく言った。 「ま、名は体を表すって...
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